武力を持つものだけが国政を執ることができてしまう現実
多くのセルビア人とアルバニア人国民を巻き込んだ戦争ゲーム
旧ユーゴの多くの人々は、連邦解体後に民族という物語に想像の共同体を求めたのである。たとえば、他民族の純血を汚すために女性を集団的にレイプするというのは、物理的暴力であると同時に象微的行為でもある。コソボ紛争でも、憎悪の投影と暴力の反射を見ることができる。コソボでは、アルバニア系住民が多数派を形成し、セルビア人は少数派である。
歴史的な経緯から、「コソボ」という言葉は、セルビア人とアルバニア人のどちらにも、混乱した歴史の中で自らの民族に長い間加えられてきた「苦難と不正義」の比喩として使われてきたLという(ノーム・チョムスキー『アメリカの「人道的」軍事主義ーコソボの教訓』〈益岡賢/大野裕/ステファニー・クープ訳、現代企画室〉邦訳50頁)。連邦内の自治州として認められてきた自治権は、一九八九年にミロシェビッチによって奪われ、コソボ紛争が始まる。はじめは、アルバニア系住民のコソボ独立運動は、非暴力を標榜するイブラヒム・ルゴバを指導者としていた。
しかし、武力を持つものだけが政治交渉の舞台に上がることができるという国際政治の「現実」(実は米国の政策である)を突きつけられて、コソボ解放軍の武装闘争が民衆の支持を集めていく。セルビアの軍事力に対抗できるのは、非暴力ではなくやはり軍事力しかないというわけだ。暴力の反射はセルビア側も同じである。米国とミロシェビッチの交渉が決裂して、一九九九年三月にNATOがセルビア空爆を始めると、セルビア軍によるアルバニア系コソボ住民にたいする迫害が一気に加速したといわれている。二〇世紀のジェノサイド。
+ルワンダ大虐殺ルワンダはアフリカ大陸中央に位置する、人口八〇〇万の小国である。三つの部族が暮らしているが、ほとんどは少数派のツチ族と多数派のフツ族である。ルワンダのジェノサイドは、ジャーナリストや社会学、政治学、文化人類学の研究者の注意を引いた。多くの報告や研究書・論文があるが、そのなかでも隣国ウガンダの政治学者マームード・マムダニの研究『犠牲者が殺人者になるとき』((三は傑出している。
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書などで補足しながら、マムダニの周到な議論をつぎのように要約してみよう。(1)部族の政治的差異二つの部族の生物学的特徴、部族の集団的記憶(神話や伝承)、社会的分業(農業と牧畜)、政治支配の構造などを総合して考えると、ツチ族はルワンダ王国が成立する以前に存在していた民族(エスニック・グループ)であるが、フツ族は単一の民族ではなく、国家形成と軍事的膨張の結果支配下に置かれていった複数のエスニック・グループの集団である。
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